鈴木亮平
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日本海に面する寺泊と出雲崎の二つの町のほぼ中間に位置する小さな集落“寺泊山田”。海と山に挟まれた北國街道沿いに家々が軒を連ねます。
明治以前は宿場町として旅館が集まっていたそうですが、古くから篩(ふるい)などの曲げ物がさかんに作られていた土地でもあります。
かつては、秋になると曲げ物職人たちが農作業用のふるいや、一般家庭で使う正月の餅用の蒸籠を自転車に積んで行商に出掛けていく風景が見られたそうです。
隣県で行われている曲げ物の起源もこの寺泊山田にあったと言われているほどの曲げ物のさかんな場所。寺泊山田の曲げ物製造技術はその歴史的価値と文化的価値が認められ、長岡市の無形文化財の指定も受けていますが、現在この地で曲げ物を生業とするのは、江戸時代より続く足立茂久商店ただ一軒となっています。
曲げ物が衰退していく中で、生き残れた理由
曲げ物をつくるのは足立茂久商店11代目の足立照久さん。先代より技術を継承し、主に旅館や割烹、和菓子店などの食のプロに向けて、フルイや裏ごしなどの製作・修理を行っています。
昭和50年代以前は集落内には他にも曲げ物職人がいたそうですが、伝統的な曲げ物はステンレス製品などの台頭で需要が減り、その仕事は減っていきました。
そんな中、足立茂久商店が生き残れたのには理由があります。多くの曲げ物職人が、農家や荒物屋向けに曲げ物を作っていましたが、足立茂久商店では主に料理屋向けに作っていました。繊細さが求められる料理屋向けの曲げ物は、多くの職人が嫌がる仕事であったと言われています。しかし、それ故にその繊細な手仕事は現代においても求められ、足立茂久商店のフルイや裏ごしを愛用する板前や菓子職人が少なくありません。
「料理人や菓子職人の方には馬の毛を使った裏ごしが必要とされています。馬の毛の引っ掛かりによって、金属の裏ごしよりも食材が滑らかになると評価を頂いています」と足立さん。
ただ、馬の毛を張る作業は簡単なものではなく、水につけながら強い力で引っ張らなければならないため、ふやけた指の皮がむけることもあるのだそうです。
料理人は料理によって大小さまざまなふるいや裏ごしを使い分けるため、足立茂久商店では料理人の要望に合わせて色々な大きさをオーダーメイドで作っています。
時代の変化に合わせて生み出した「電子レンジで使えるわっぱ」
その一方で、一般家庭向けの商品で売れ続けている商品があります。それは先代が開発をした「電子レンジで使えるわっぱ」。30年以上前に開発したわっぱで、厳選した柾目の檜と竹くぎを使うことで、電子レンジでも耐えられる仕様となっています。
現在は県外の工芸品を扱うセレクトショップやオンラインショップでも扱われており、一般ユーザー向けのロングセラー商品となっています。
開発の背景には、一般家庭でおせち料理などの手のかかる料理が作られなくなり、それと同時に加工食品の選択肢が増えていったことが挙げられます。それにより、一般家庭における裏ごしやフルイなどの需要がどんどん落ち込んでいきました。
曲げ物の需要が減っていくことをただ悲観するのではなく、時代のニーズに合わせて先代が開発した製品は、11代目の照久さんが引き継ぎ製作をしています。
曲げ物を使ったインテリアへの挑戦
現在、足立茂久商店で新しく開発しているのは、曲げ物を使った照明器具。檜の曲げ輪を三つ組み合わせた丸いシルエットと和紙により、モダンで優しい雰囲気を感じさせる照明です。和紙は長岡市小国地区で作られる伝統の小国和紙を使用し、それを裏ごしの網を張るのと同じ技法で張っていることもこの照明の特徴です。
この照明を使って新潟県内の歴史的建造物で灯り展を開催するなど、インスタレーション作品へとその領域を広げています。
現在では非常にニッチな曲げ物職人という仕事ですが、足立茂久商店は、その技術を必要とするプロの料理人や和菓子職人に道具を提供することで生き残ることができました。そして、時代の変化に合わせて新しい製品の開発も続けています。
機械ではなく、一つ一つ職人の手で作られていく曲げ物の数々。使い込むほどに深い色へと変化していく道具は、修理をしながら何十年も使い続けていくことができます。
伝統工芸は決して過去の物ではなく、現在進行形で生きている合理的なものであることも、足立茂久商店の製品は教えてくれます。
足立茂久商店
住所:新潟県長岡市寺泊山田1289
TEL・FAX:0258-75-3190
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