仏壇職人が手掛ける、木の雑貨ブランド「KOUGI」

DSC_0209
The following two tabs change content below.

鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

新潟市東区の木工団地にある仏壇店・有限会社阿部仏壇製作所。

こちらは昭和24年創業の仏壇店で、現在は3代目の吉田一彦さん・達洋さん兄弟が運営をしています。兄の一彦さんは塗り師として主に仏壇の漆塗りを担当し、弟の達洋さんは木地師として仏壇のベースとなる木の加工・組み立てを担当しています。

阿部仏壇製作所は、かつては仏壇店向けに木地の製造・販売を行っていました。しかし、時代の流れと共に安価な海外生産の仏壇が主流となり、木地が全く売れない状況に陥ったそうです。先代の故・孝さんは、「仏壇の産地である新潟で県内産の仏壇が作れないようでは、産地が名ばかりになってしまう」と危惧し、15年前に直販を始めました。

現在は主に一般の顧客に向けて受注生産を行う店へと業態を変化させています。ちなみに、木地工場とショールームを持ち、自社で製造から販売までを手掛ける仏壇店は全国的に見ても珍しいのだそうです。

IMG_0072
新潟市東区の木工団地内にある阿部仏壇製作所。
DSC_0244
広い作業場内には、さまざまな木工機械が整然と並んでいる。

 

父の思いを受け継ぎ、木地師の道を選んだ弟・達洋さん

現在34歳の弟・達洋さんが家業の仏壇店に入り、木地師の修行を始めたのは20代半ばになってからだったと言います。達洋さんは美術系の大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は広告制作の仕事に携わっていましたが、社会人3年目に大きな節目が訪れます。

2代目である父・孝さんが病気を患い、仕事が継続できなくなってしまったのです。その時期に初めて孝さんの仏壇にかける本当の想いに触れた達洋さんは、勤めていた会社を退社し、家業の阿部仏壇製作所へ入り木地師としての人生を歩み始めます。

「父がその後間もなく亡くなってしまったため、父から直接技術を学ぶ時間はほとんどありませんでしたが、父と長年仕事をしてきた木地師の出口さんに技術を教えて頂きながら現在も技術の研鑽に励んでいます」(達洋さん)。

DSC_0261
仏壇の寸法を測る専用の物差しを持つ、木地師の吉田達洋さん。
DSC_0236
天井の高い作業場内には、仏壇の素材となる無垢材が並ぶ。
DSC_0247
木地の製作に使われるさまざまなサイズのかんな。精密さが求められる作業のため、たくさんのかんなを使い分ける必要がある。
DSC_0249
繰り返し研ぎながら使っていくのみは、年月とともに刃が削られ短くなっていく(右)。
DSC_0254
多種類のカッターが用いられるのも、仏壇の製作所ならでは。

 

仏壇は“最上級”の思いが詰まったもの

「自分たちが作った仏壇をお客さんに納めた時、お客さんが心からその仏壇を喜んでくれたことがとても印象的で…。その方にとって仏壇を購入することは、人生で最後の本当に特別な仕事だったんです」と木地師として仕事を始めた当初を振り返る達洋さん。

しかし一方で、当時の仏壇は海外で組み立てまで完了したものが、「国産品」として出回るような状況にあったと言います。「海外製が悪いわけではありませんが、仏壇はお客さんにとって本当に特別なもの。だからこそ、正直に真摯な姿勢で仏壇を提供しなければならないと強く思いました。とても責任が重く、人の思いに応えるという意味において仏壇は究極のもの。最上級の思いが詰まったものだと思います」。

DSC_0227
一般的には木地師とは別に宮殿師(仏壇内の屋根や柱部分を製作する職人)が宮殿部分を製作するが、阿部仏壇製作所では一人の木地師が多能工として宮殿や須弥壇も手掛ける。
DSC_0228
阿部仏壇製作所で手掛けているオーダーメードの金仏壇。

 

木製家具や雑貨の製作を始める

達洋さんは、一方で仏壇の需要がどんどんと落ちているのを感じていました。「仏壇だけに依存をしていては、事業を継続するのが難しくなる」と危機感を感じていた達洋さんは、修行を始めて1年後に家具の製作に着手します。友人からの依頼でキャビネットやテーブルなどさまざまな木工家具をオリジナルで製作をしていきました。そうして、仏壇製造の傍ら、家具製作の実績と経験を着実に積み上げていったそうです。

さらに、2011年にはオリジナルの木工雑貨ブランド「KOUGI」を始めます。箸置きやコースター、ティッシュケースや玩具など、普段使いできるアイテムを考え製品化していきました。それらの生活雑貨を作る際に気を付けたのは、何よりもお客さんにとっての使いやすさを考え、耐久性が高く、毎日使いたくなるようなものとすることだったと言います。

KOUGIブランドの雑貨は、ウォールナットやチェリーなどの無垢材の優しい質感が特徴で、シンプルなデザインは飽きることなく長く使っていくことができます。

DSC_0200
2種類の無垢材を組み合わせたコースター。水分がたまらないように溝が入れられている。
DSC_0202
5種類の無垢材の箸置きが専用の収納ケースに納められた箸置きセット。
DSC_0209
柔らかい質感の杉のティッシュケース。蓋の漆は兄の一彦さんが担当。
DSC_0215
二色の木がかわいらしい鍋敷き。

ちなみにKOUGIの名前は、職人気質だった先代である父の名前「孝(たかし)」と、義理人情や正義の「義」を組み合わせてつくられたものです。「大量消費が当たり前になっていますが、自分たちは丁寧なものづくりをしっかりと行い、壊れても修理をしながら使っていけるものを作っています。そして、そのようなものとの付き合い方を伝えていきたいです」と達洋さん。

受注生産で仏壇を作っている達洋さんは、常に作り手としての責任感を感じながら仕事に取り組んでいます。「これからは仏壇だけに限らず、家具や生活雑貨など、人の生活のさまざまな部分で役に立てるようなものを生み出していきたい」(達洋さん)。

4年前にスタートした阿部仏壇製作所の生活雑貨ブランド「KOUGI」には、時代の流れと共に陳腐化していくような華美さはなく、何よりも使う人が愛着を持って長く付き合っていけるようにという願いが込められています。それは、並々ならぬ責任感をもって真摯にものづくりに取り組む、仏壇職人ならではの精神の現れのように思います。

DSC_0211
2016年3月に行われる新潟県内のコンペ「ニイガタIDSデザインコンペティション」に向けて制作中の晩酌セット。

KOUGI 有限会社 阿部仏壇製作所

住所:新潟市東区木工新町372-10

TEL:025-275-7801

MAIL:abe-bu@ac.auone-net.jp

URL:http://www.ab.auone-net.jp/~abe-bu/

 

The following two tabs change content below.

鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。