山林を守りながら木の器を生み出す木工クリエイター

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鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

五頭連峰の裾野に位置し、里山と田園が入り混じる阿賀野市女堂。のどかな風景が広がるこの集落に一人で移り住み、間伐材を使って器やカトラリーを作り出す若い木工作家さんがいます。こちら「KIYA DESIGN」の成川潤さんの自宅兼ショールームを訪問し、お話をうかがいました。

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集落の中にあるKIYA DESIGN。看板とフクロウの彫刻が目印。
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作業場に立つ成川潤さん。

現在28歳の成川さんは、3年前に集落内の中古住宅を購入し、新潟市内から移り住んできました。「当時は薪ストーブを扱う会社で働いていましたが、個人的に木工を始めたかったので、作業場がある物件を探していました。また、以前からやっていたチェーンソーアートができることも条件でしたが、この場所が条件的にぴったりだったんです」(成川さん)。

そうして、会社員として働きながら、器づくりなどの創作活動をスタートしたそうですが、その後木工に専念するために会社を退職し、独立してKIYA DESIGNをスタートしました。

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成川さんが設置した薪ストーブのある自宅兼ショールーム。
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間伐材の薪を使っているので、冬の暖房費が掛からないそう。

材料となる間伐材を自ら里山で伐採

成川さんの器づくりにはユニークなプロセスがあります。それは、材料となる間伐材を採るのに、自ら山に入ってチェーンソーで伐採をすることです。「里山は人間が管理をしていかないと荒れていき、放っておくと土砂崩れなどの災害が起こりやすくなります。また、この近辺でも里山に野生の猿が住み着き、畑を荒らすなどの被害が出ていますが、間伐をすることによって猿害を防ぐことができます」(成川さん)。

KIYA DESIGNの裏にも里山が広がっていますが、成川さんは所有者の方の許可を得て間伐を行い、それを自ら製材し、1年間乾燥させてから器づくりに使用しています。

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作業場の前に立つ成川さん。後ろには里山が広がっている。

「森を整備しながら、間伐材を使って器をつくり、その器を使っていただく。誰も損をしない、すごくいいサイクルだと思うんです」と成川さん。

また、でき上がった作品ひとつひとつの木の出どころを説明できるというのも、成川さんならでは。完成した器としての価値だけでなく、その背景に含まれる価値も伝えています。

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ナラやサクラのプレート。仕上げには口に含んでも安心なクルミオイルを使っている。
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エンジュの木べらとカッティングボード。
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食器としても小物入れとしても使えるトレイ。

 

一貫して自然に関わりながらキャリアを重ねる

成川さんは幼少の頃から昆虫や魚、鳥などの生き物が好きで、今も烏骨鶏や熱帯魚を飼いながら暮らしています。「生き物たちがどこに住んでいるのか?」を想像したときに、それは自然の中であり、守っていかないといけないものだと、子どもの頃からごく自然に考えるようになったそうです。

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成川さんが飼っている烏骨鶏。雌鶏なので毎日卵を産んでくれるそう。
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リビングの大きな水槽では熱帯魚を飼育している。

そんな成川さんが高校卒業後に選んだ進路は、自然環境保全について学べる専門学校でした。そこでは、実際に野外へ出て植生調査などを行いながら、生態系について俯瞰的に学習をしていったそうです。

そして、専門学校卒業後に就職をしたのが魚沼地域の森林組合。「ここで3年ほど働いていましたが、植林や下刈り、枝打ち、間伐、本伐など、山を整備する仕事に携わっていました」(成川さん)。森林組合の仕事を行いながら、間伐で切り倒される木を有効活用したいと考えるようになり、独学でチェーンソーアートを始めたのだそうです。

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ショールームには成川さんが作ったウッドランプや彫刻も並んでいる。

木材の生産に関わってきた成川さんは、その後、伐採された木を生かす仕事に興味を持つようになり、新潟市内の家具製作の会社に転職をします。「社長に自分の木への思いを話したところ、共感をしていただき働かせていただけることになりました。その会社には1年ちょっといましたが、ここで無垢材の扱い方を学ばせていただきました」(成川さん)。

 

その次に成川さんが転職をしたのは薪ストーブの販売・設置を行う会社でした。成川さん自身が薪ストーブに興味を持っていて、ちょうどその会社の方でも薪を割るためのチェーンソーの扱いを指導できる人材を探していたのだそうです。「この会社では薪ストーブの販売だけではなく、住宅の断熱材の提案も行っていました。それで、大工さんと仕事をすることが多く、ここで住宅に関する基礎知識を習得しました」と成川さん。

 

こうして、それぞれの職場で1~3年間程度ずつ働きながら、知識やスキルを積み上げていった成川さん。それぞれ異なる仕事ですが、一貫して木や自然に関わりながら、その上流から下流までを経験していきました。

 

中古住宅の購入、そして独立へ

現在成川さんが木工をやりながら暮らす中古住宅を購入したのは、成川さんが24歳の時だったと言います。社会人になり3つ目の会社に就職をして間もない頃でもありました。躊躇することなくキャリアを変え、24歳で住宅の購入をするという決断の速さの理由についてうかがうと、「林業をやっていた時に何度か死ぬかもしれないような危険な目にあいました。山の中でスズメバチに3回刺され、呼吸困難になり意識を失いかけたことや、先輩が伐採中の木に気付かず、倒れてきた木の枝に接触し大けがをしたこと、子連れのカモシカに遭遇し突進してきたカモシカに角で突かれそうになったこと…など、そんな体験をしたら、『人間は突然明日死ぬかもしれない』と思うようになったんです。だから、やりたいことがあるときに『いつかやろう』では遅すぎると考えるようになりました」(成川さん)。

 

中古住宅と作業場を手に入れた成川さんは、木工機械をそろえ、師匠となる人を見つけて指導を受けながらウッドターニングの技術を磨いていきました。そして、休日にクラフトフェアなどのイベントに出店をしながら、自分が作った木工製品をお客さんが喜んで買ってくれることに感動を覚え、どんどんとその世界にのめりこんでいったそうです。

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小屋をカスタマイズした作業場にさまざまな木工機械が並ぶ。
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旋盤で木を回転させながら削っていく。

現在は自身で手掛けるオンラインショップを中心に、木の器やカトラリー、アクセサリーの販売を行っているほか、木工教室を開いて山と木と人の繋がりを伝える活動も行っています。

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成川さんのリビング兼仕事部屋。ブログの更新などの情報発信も成川さんの大切な仕事の一つ。

また、昨年は村上市の石彫作家の知人からの依頼で、100年以上使われて建て替え・撤去されることになった神社のケヤキの鳥居を使った木工のプロジェクトを行ったそうです。役目を終えた鳥居を材料にして、地元の住民の方のためにお盆やお皿を作ったり、擬宝珠(ぎぼし)や高坏(たかつき)を作って神社に奉納をしたりという、公共性の高い取り組みが新聞等のメディアで取り上げられました。

 

環境保全を難しい言葉で論じるのではなく、山に入って自分で間伐を行い、自分の手で木工製品を作るという、とてもシンプルな方法で実践をしている成川さん。成川さんが手作りで生み出す器やカトラリーは、使う人の暮らしを楽しく豊かにしてくれるもの。そこには、難解な理論は一切なく、関わったすべての人を幸せにし、自然や生態系の維持に貢献しています。そんな成川さんの活動は、これからの時代に適合したサスティナブルなものづくりであり、地方での新しい生き方のモデルとなりそうです。

 

KIYA DESIGN

住所:新潟県阿賀野市女堂1534-1

TEL:090-1404-1445

URL:http://kiya-design.info/

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鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

1件のコメント

  1. ここにも 空高く、独り自分の凧を上げている人がいますね!
    どうぞ、その凧糸をしっかり握って、どこまでもどこまでも
    天の涯てまで高く高く上げてください!

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