鈴木亮平
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40代から鳥籠づくりをスタート
丈夫で軽い竹ひごで作られた鳥籠。かつて愛玩用に小鳥を飼う家が多かった時代には、日本各地で職人による鳥籠の製造が行われていたそうです。しかし、近年は需要の減少や安価な輸入品の台頭により、作り手の数が激減しています。
そんな時代にありながら、鳥籠を手作りで生み出す職人さんが阿賀野市にいました。
こちら、鳥籠屋十蔵の店主である椎野十蔵さんが鳥籠を作り始めたのは、椎野さんが40代の頃だったと言います。「その頃に趣味で小鳥を飼い始めたのですが、自分が作った鳥籠で飼いたいと思い、我流で竹製の鳥籠を作ったのが始まりでした」と椎野さん。
しかし、我流ではなかなか納得のいく品質の鳥籠ができなかったのだそうです。当時勤め人であった椎野さんは、きちんと技術を学びたいと思い、休日を利用して、栃木県鹿沼市の鳥籠職人・倭文鬼久美(しどりきくみ)さんのもとで技術指導を受けるようになりました。
鹿沼の匠より、関東流鳥籠を習う
木工の町として知られる栃木県鹿沼市には、かつて20軒もの鳥籠屋があったそうです。木工所で出る不要な端材を鳥籠の底板に利用でき、竹ひごの材料となる良質な真竹が取れる環境であったことがその一因なのだとか。
かつて日本各地で竹製鳥籠が作られていましたが、地域によって装飾や構造が微妙に異なります。椎野さんが作る鳥籠は、鹿沼市の倭文さんより受け継いだ関東流の鳥籠。奥行と幅の比率が2:1で、高さがあり、スマートな形をしていることや、籠の上部が井桁状に組んであることが特徴です。また、中心に穴を開けた竹ひごの中に細い竹ひごを通した「管入(くだいり)」と呼ばれる部材を竹籠の四隅に用いるなどの細かな細工も施されています。
材料づくりに3年
「いい鳥籠を作るのに、材料となる竹ひごの品質がとても重要」と話す椎野さんは、竹を採取するところから独力で行っています。竹ひごの材料となる良質な真竹を求めて、粟島や佐渡まで竹の採取に出掛けたこともあるそうです。
採取した竹は、ドラム缶で湯を沸かし、その中で20~30分間煮込む「油抜き」を行います。それを1~2カ月露天で乾燥させ、その後さらに3~4年間自然乾燥をさせて初めて加工できるようになるのだそうです。
「この工程を経た竹を使うことで、完成した鳥籠は使い込むうちに極上の飴色へと変化していきます。これが手間暇を掛けて作る竹の鳥籠の一番の魅力ですね」(椎野さん)。
10年以上前に作ったという椎野さんの鳥籠は、赤みを帯びた濃い飴色に変化していました。油抜きをしていない竹では、何年使ってもこのような深い色味は出ないのだそうです。
供給が激減した竹の鳥籠に全国から依頼が舞い込む
時代の流れと共に鳥籠作りを生業とするのが難しくなり、日本国内で竹製の鳥籠を作る職人も減少していきました。そんな中で、椎野さんは、2013年にホームページを立ち上げて鳥籠の販売を本格的にスタートしました。ニッチなジャンルながらも竹製鳥籠の需要は存在し、インターネットでの直販とすることで、これまで途切れずに日本各地から注文が来ているそうです。
「それでも、決して儲かる仕事ではありませんが、子どものころから細かい仕事が好きで、この鳥籠作りはどれだけやっても嫌になるということがありません。それに、お客さんからオーダーメードの鳥籠の依頼があった時、どうやって期待に応えようかと考え、作り、納品をして喜んでもらえるのがとても嬉しいですね」と椎野さん。
椎野さんは、鳥籠だけでなく、鳥籠の技術を応用した照明や花台などの販売も行っています。勤め先をリタイアして、鳥籠作りに専念できるようになって数年が経ちました。「鳥籠作りは趣味と実益を兼ねた仕事です。これからも好きな鳥籠作りをやって楽しく生活をしていきたいですね」(椎野さん)。
頑丈で経年変化を楽しみながら使っていける椎野さんの鳥籠は、鳥籠としてはもちろん、繊細な美しさを持つ工芸品としての魅力もあります。椎野さんは、作り手が減り、文化としても危機を迎えている鳥籠作りを、ライフワークとして楽しみながら続けています。
勤め人として働く傍ら、休日を利用して磨いてきた技術を使い、定年後に鳥籠職人として第二の人生をスタートした椎野さん。全国の鳥籠ファンと繋がりながら、日々コツコツと鳥籠を作り続けています。
鳥籠屋十蔵
住所:新潟県阿賀野市女堂1251
TEL:0250-63-9638
URL:http://www.torikagoya-jyuzo.jp/
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