大切な家具や道具を蘇らせる、木製品修復のスペシャリスト

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愛着を持って長く使ってきた家具や、祖父母や両親から受け継いだ家具。表面が劣化したり、傷や汚れが目立ってきても、まだまだ使っていきたいと思う人は少なくないと思います。

今回取材で訪れた、阿賀野市にある「愛着工房いしかわ」の石川彰さんは、そんな木製家具の補修や塗装を専門で手掛ける珍しい職人さんです。また、家具のほかにも木部であれば住宅の建具や床柱や框(かまち)などさまざまな部位の修復も行います。さらに最近では、新しい家具や建具、室内の板壁やフローリングなどを逆にビンテージ感のある仕上げに加工する仕事の依頼も増えているそうです。

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阿賀野市水原にある作業場で茶箪笥の修復作業をする石川彰さん。
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粉塵が舞い上がる作業のため、2つの換気扇はフル稼働。
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塗りを行った部材は専用の棚で乾燥させる。

 

コピーライター、喫茶店オーナーを経て職人に

大学時代は新聞学科で学んでいたという石川さん。卒業後は当時人気が高まっていたコピーライターの道を選び、社会人としてのキャリアをスタートしたそうです。

そしてその後、その雰囲気が好きだったという新潟市古町の純喫茶を前オーナーから受け継ぎ、ライター業をしながら喫茶店の仕事も始めました。「何かを作り出すという点で、コピーライターも飲食店もどちらも好きな仕事でした。学生時代は飲食店の厨房の仕事が好きで、ずっと飲食店でアルバイトしていましたね。それにその純喫茶の、古いものが持つ独特の空気感が好きで受け継ぐことを決めました」(石川さん)。

その後、喫茶店の仕事は約15年間続けていたそうですが、徐々にライターの仕事は減らしていき、今度は従兄弟が経営していた木工塗装の会社の仕事を掛け持ちするようになったと言います。

実は石川さんは高校卒業後の浪人生時代に、当時叔父が経営していたその木工塗装の仕事を手伝っていた時期がありました。大学に進んでからも長期休暇で帰省した際に手伝いをして、着実に塗りの技術を身に着けていった経歴があります。

しかし、従兄弟が経営する会社は不況の影響で仕事が減っていき、石川さんは会社から身を引くことになります。そして、2000年に新潟市内で独立して工房を開き、現在の木工補修の仕事をスタート。当初は骨董屋さんからの依頼で骨董家具を中心に修復の仕事を行いました。

やがて、喫茶店の仕事から身を引き、木工補修の仕事に専念することになり、現在へと至っています。

 

大切なのは経年変化を生かすこと

「修復で気を付けているのは、新品の家具のようにきれいにし過ぎないことですね。部屋に置いて違和感がないくらいに修復をする必要がありますが、そのものが持っている経年による味わいは残すようにしています」。また、「修復に取り掛かる前に、お客さんと最初にじっくり話して価値観を共有することが大事」とも話します。

一口に修復と言っても方向性を間違うとお客さんの満足する仕上がりにならないため、どのような修復をしたいのかイメージをしっかりと共有することがとても重要なのだそうです。

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ちゃぶ台の修復例。修理前は染みや汚れ、割れまで入っていた(上)。割れを直し、研磨し、塗装を繰り返して完成(下)。写真提供:愛着工房いしかわ

 

同じものは一つもない家具の修復

石川さんのところへは、テーブルやイス、茶箪笥や建具、スピーカーなど、さまざまな木製品の修復の依頼が入ります。時には北海道や九州などの遠方からも修理の依頼があるそうです。「持ち込まれる家具は全てつくりも傷み方も異なりますので、修復のやり方や加減も変わってきます」と石川さん。ヒビがあれば木やパテを使って埋め、部分的に木の表面が傷んでいれば、他の箇所と同じような色を調合して塗っていきます。色を違和感なく合わせ、木目を筆で描いて再現するという高度な技術も使われます。

使う塗料はウレタン塗料がメイン。「一概に自然塗料の方がいいと思われがちですが、家具は観賞するものではなく毎日使っていくもの。だからこそ、手入れが簡単なウレタン塗装にすることが多いです。ただ、ウレタンとはいえ『いかにも塗りました』という感じにはしたくないので、自然な質感になるように塗り方に気を遣っています」。

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色の調合は、黒・茶・赤・黄の4種類の顔料を掛け合わせて行われる。
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主に大小2つのハンドスプレーガンを使い分けて塗装が行われる。

「時々『この家具は直す価値はありますか?』とお客さんに聞かれることがありますが、その方にとっての家具の価値は金額で決まるものでも他人が決めることでもありません。直してまで使う価値があるかどうかは、ご本人が決めること」と石川さん。

修復代金は直すものの金額に応じて決めるのではなく、あくまで修復に掛かる材料と手間で決めています。場合によっては、買い替えた方が安くなるケースがあるかもしれませんが、大切なのは本人が修復をして同じものを使っていきたいかどうかということです。

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依頼があった茶箪笥の表面の塗装を電動サンダーで落とす石川さん。

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デリケートな突板部分はより丁寧なやすり掛けが求められる。

 

昔の家具は材質もつくりもよくできている

現在のように大量生産で作られる安価な家具がなかった時代には、職人が手作りで家具を製作していました。「昔の家具や建具は材質もつくりもよくできているものが多い。それを今新品で買おうとするとものすごい金額になりますし、そもそも作ることが不可能な場合もあります。また、時代ごとの特徴が表れたユニークなデザインも古いものの面白さです」と石川さん。

仕事のやりがいについてうかがうと、「修復が完了してお客さんに渡す時に、お客さんが喜ぶ顔を見るととても嬉しい気持ちになります。お客さんにとって特に思い入れの強い家具だった場合には泣き出す方もいたりして、思わずもらい泣きしそうになることもありますね(笑)」。

年配の方の家を訪問すると、色あせて傷んだ茶箪笥や座卓などを見かけることがありますが、きちんとした修復をすれば、新たな気持ちでまた何十年と使っていける状態に復活します。長く使われてきた家具には、その家の歴史や思い出が詰め込まれており、受け継ぐ家族にとっては他のどんな家具よりも特別な意味を持つ存在であるかもしれません。

古くなって傷んだものを捨て、新しいものに買い換えるのは簡単なことです。しかし、愛着を持って長く付き合っていきたいと思えるほどの関係性をものと築くことができれば、時の経過と共にものはさらに特別なものへと深みを増していくのだと思います。

石川さんが取り組む「修復」という仕事は、ものをきれいに直すことによって、ものと人の関係を維持したり、再構築したりすることにまで及んでいるように思います。

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作業場2階の事務所にて。愛用のキセルで刻みたばこを吸う石川さん。
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ダイニングテーブルなどのオリジナルの家具製作も行う。写真は天板サイズを小さくしたテーブルサンプル。実直に機能を追求したシンプルなデザインが特徴。

愛着工房いしかわ

住所:新潟県阿賀野市水原2110

TEL:0250-62-8686

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