創業百十余年、新発田市の漆工房が守る新発田の文化

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鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

城下町新発田市で明治35年から続く老舗の漆工芸店「仏壇みやはら 宮原漆工芸」さんを訪ねました。ここでは、かつてお膳やお椀などの漆器を製造していたそうです。

「昔は冠婚葬祭などをみな家でやっていましたので、お膳などの漆器が各家庭でたくさん使われていました。でも時代の流れと共にそのような習慣は少なくなりましたし、安価なプラスチック製品が主流になっていきました」と話すのは四代目の宮原さん。

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金箔を接着するための漆を塗る宮原さん。

現在は仏壇店として、県内の木地師や金具師と連携して仏壇の製造を行っています。他にも仏壇・仏具の修理や洗濯、漆器の修理、さらには毎年8月に行われる新発田まつりで使われる「台輪」と呼ばれる山車の木部の補修も行っているそうです。

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店内には鮮やかな金仏壇が並ぶ。

 

新発田の夏の風物詩、新発田まつりの台輪の補修を手掛ける

今回取材に訪れた際に宮原さんが行っていたのは、新発田まつりの台輪の補修作業。今年の8月の新発田まつりに向けて、破風や見送り(台輪の後部にある飾り)、欄干やその周りの部材など、分解できる部材を作業場に運び、傷んだ木部の漆塗りや金箔張りを行っているところでした。

取材時に見せていただいたのは、龍を象った彫刻の金箔を貼り直す作業。

金箔を貼り直す部分に漆を塗って、それを適度にふき取り、その上に金箔を貼るという作業を繰り返していきます。「この時、拭きすぎると金箔はくっつきにくく、拭き足りないと金箔が曇るので、その加減が重要」と宮原さん。

また、非常に薄い金箔は風の影響を受けやすいため、冬場は風の出ない反射式のストーブを使って暖をとります。特に大変なのは夏場の作業。風が出るエアコンや扇風機を使うことができず、風がある日は窓を閉め切って作業をしなければなりません。流れてくる汗が金箔に垂れないように、特に気を遣うのだそうです。そのため、夏は涼しい早朝に仕事を始めるのだとか。

また、光を反射する金箔は強い光の下では目が疲れるため、照明を使わずに窓から差し込む自然光のもとで作業をすることが多いそうです。

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金箔を貼る前に、漆を綿で拭き取る作業。

宮原さんが手際よく金箔を竹のピンセットでつまみ、木部に載せて押し付ける作業を繰り返していくと、複雑な曲面にぴったりと金箔が密着し、龍の彫刻が鮮やかに甦っていきました。

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湿気が伝わらない竹製のピンセットで金箔を貼っていく。
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金箔を載せた後に、綿で押すことで金箔が馴染んでいく。

 

ムラや埃を排し、乾燥時の湿度調整にも気を遣う漆塗り

一方、漆塗りも繊細さが求められる仕事であると言います。金箔は風を嫌いますが、漆はほこりを嫌います。そのため、金箔同様に作業中は風のない状態での作業が求められます。また、漆塗りで重要なのは厚さを均等にしてムラなく塗ることだと言います。「刷毛で塗るときは縦方向・横方向と向きを変えながら均一になるように塗っていきますが、漆は数日たって乾かないと良い仕上がりになっているかどうかが分かりません。ムラがあったり、ほこりがついていたりした場合には、表面を水研ぎして、再び塗り直さなければなりません」と宮原さん。

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台輪の破風部分。傷んで剥がれていた漆を塗り直した。

また、漆を乾燥させるのに最適な湿度は60~70%と少し高めなので、空気が乾燥している場合には、濡れた布を使って湿度を上げるといった湿度管理も重要なのだそうです。

 

仕上がりを厳しくチェックし、技術の向上を続ける

塗師であり箔師である宮原さんは22歳でこの道に入り、37年の経験を持っています。やりがいを感じるのは「満足のいく仕上がりになった時」と宮原さん。

「いつも何かしら気になる点が出てきます。それは他の人が見ても気付かないくらいのものですが、そういう意識を持たないと進歩していかない」と製品の仕上がりには常に厳しく自己評価をしているそうです。宮原さんが手掛ける漆や金箔には、そんな職人としてのこだわりが表れています。

しかしながら、新発田市においては塗師の高齢化が進み、後継者不足という課題に直面しています。漆器が一般的に使われていた時代は過ぎ去り、住宅や生活スタイルの変化とともに、仏壇の需要も伸び悩んでいるのが現状です。

しかし、安価で大量生産できる樹脂製の塗装が主流になっているからこそ、職人が刷毛を使って仕上げる伝統的な漆工芸には高い付加価値があるように思います。

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補修前の台輪の見送り部分の鶴の彫刻。全体的に金箔が剥がれている。まつり当日には、新しく金箔を貼り直した鶴が見られる予定。

そして、300年の歴史を持つ新発田まつりの台輪のように、高い文化的価値のあるものを維持していくのには、宮原さんのような伝統技術を持った塗師の存在が欠かせません。伝統ある祭りなどの地域の固有性を守り伝えていくことは、その地域の価値を維持し後世に伝えていくことに繋がります。

新発田まつりは地元の人のみならず、市外から訪れる観光客をも魅了する大きなイベント。新発田まつりの台輪は、「喧嘩台輪」の異名を持つほどの男衆の押し合いが名物ですが、今年は金箔や漆部分の輝きを取り戻した泉町の台輪がお目に掛かれます。台輪に込められた宮原さんの技術や情熱も今年の新発田まつりの見どころになりそうです。

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抹茶を入れる茶道具の棗(なつめ)など、茶道具も製作している。こちらは宮原さんが漆を塗り、会津の蒔絵師が蒔絵を描いたもの。
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茶の湯で使われる香合(香を入れておく器)。アヤメやモミジが描かれている。

 

仏壇みやはら 宮原漆工芸

住所:新発田市諏訪町3-4-2

TEL:0254-22-2543

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